入院中の方が子どもや孫の結婚式に参列するには

■やっぱり家族だけでは、医療や介護の負担が大きい

2021年度の全国婚姻数は50万1118件、平均初婚年齢は夫31.2歳/妻 29.6歳となっています。20年前の平均初婚年齢は夫 28.8歳/妻 27.0歳 と20年間で男性は2.4歳、女性は2.6歳上がっており、晩婚化が進む中、結婚式に参列する両親、祖父母の年齢も上昇傾向にあります。

■ハード(施設)のバリアフリーは進んでいるものの、そこには課題が

「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」 が2006年に施行されて以来、ゲストハウスや専門式場・ホテルなどでも段差解消や多目的トイレの整備などハード面でのバリアフリー化が進んでいます。しかし、実際家族として結婚式に参列するとなると、結婚式では着慣れない礼服や和装のうえ、親族挨拶や家族写真、参列者への挨拶や祝辞などで大忙しで、例え普段から同居や世話をしている家族であり誰が何の介護(着替え、食事介助、オムツ交換、トイレなど)をするかを決めていてもなかなか実際には対応することができません。そうなると、いくらバリアフリーの結婚式場を選んでも、医療や介護といったソフト面が対応出来ず参列が難しいというのが現状です。大切に育て、見守ってきた子どもや孫の結婚式に参列したくても諦めざるを得ない大きな課題は実はハード面ではなく、ソフト面での対応ではないかと思います。

■結婚式に参列する3人の想いと葛藤

日本ツアーナースセンターにも、結婚式の参列に看護師の付き添いができないかという多くのご相談をいただきますが、今回はよくある相談を「新郎新婦」「おじいちゃん」「参列する家族」の3つの視点で整理してみたいと思います。

《前提》
この度、お孫さんが結婚披露宴を執り行うこととなった。
新婦のおじいちゃんが病院に入院中。移動や食事、トイレなど日常的な介護が必要。

●新郎新婦の想いと葛藤●
[想い]・大好きなおじいちゃんに一生に一度の晴れ姿、幸せになった姿を見てほしい
・親族とも会えるし、リフレッシュの機会にもしてほしい
[葛藤]・結婚式までになんとか退院できないかな
・退院できたとしても、当日両親や家族がおじいちゃんの世話をするのは大変だろうな

●おじいちゃんの想いと葛藤●
[想い]・大切に見守ってきた孫の晴れ姿を見たい
・一目でもいいから会っておめでとうと直接言ってあげたい
[葛藤]・寝たきりの私が結婚式場まで行く手段がないな
・私が参列したいと言うことで、子ども(新婦両親)にも迷惑をかけてしまうな

●参列する家族の思いや葛藤●
[想い]・一生に一度の晴れ姿を娘の大好きなおじいちゃんにも見てほしい
・家族で一緒に祝福してあげたい
[葛藤]・挨拶などもあるしおじいちゃんを1日見守ることはできないな
・なにかあったときに対応できる人が側にいないから大丈夫かな

実際に私たち日本ツアーナースセンターのサービスをご利用いただいたお客様からは、「入院しているおじいちゃんを結婚式に呼ぶこと自体、当初発想がなく、インターネットで調べたり、病院のソーシャルワーカー(相談支援を行う専門職)から教えてもらい相談しました」というケースがほとんどです。
それは「入院している最中に結婚式に参列できるわけがない」という、先入観や諦めがあるからかもしれません。
だからこそ、医療や介護が必要であっても、結婚式に参列できるということを知っていただき、看護師が同行することで「諦めない」を実現したいと考えております。

■入院中でも結婚式に参列するための5つの関門

入院中のご家族様が結婚式に参列いただくためのポイントはいくつかあります。
ここでは5つに分けてご説明します。

◎第一関門【そもそも一時退院ができるのか】
入院中の病院が一時外出の許可を出してくれるかが最大の関門。多くの病院では一時外出ができますが、現在は新型コロナウイルス感染症対策の観点から、入院中の一時外出(一時退院)が制限されている病院が多くあります。 一方で余命が限られている状況で一時外出・退院が出来ない場合は、一時退院ができる病院(緩和ケア病棟等)に転院後、結婚式に参列するというケースもあります。知恵と工夫と新郎新婦様、御本人の想いがあれば、第一関門を突破する方法はあります。

◎第二関門【入院中の方が「結婚式に行く!」と言ってくれるための秘策?】
入院中の場合、御本人が参列に前向きではないこともあります。理由は様々ですが多くは、治療により痩せてしまった、車いす移動になってしまった、紙おむつ着用になってしまったなど弱った自分を見せたくないという声を多く聞きます。また寝たきりで体力が持つかわからず、最終的に新郎新婦・家族に迷惑が掛かってしまうので行きたいと言えない、という話も実際聞きました。
ご家族様からお誘いしても断るケースが多いようですが、新郎新婦様から来てほしいという熱意を伝えると、結婚式参列を笑顔で承諾するようです。大切な子ども、孫からお願いされたら断れないですものね。

◎第三関門【事前の準備と当日の看護師やヘルパーの確保】
結婚式参列が可能になったあとは、結婚式に向けて主治医や病棟の看護師と体調の確認や当日の懸念事項に対する相談をします。入院している中では、主治医の許可や病棟看護師のサポートが必須です。また、当日のツアーナースにも御本人様のお身体の状態を事前に把握してもらう必要がありますので、「診療情報提供書(主治医に作成いただく、既往歴・現病・服薬について等詳細記載の書類)」「看護・介護サマリ(病院や介護施設での患者の状態やケア内容を記載)」などを取得し、ADL状況含め、関係者と共有します。
日本ツアーナースセンターのケースでは、事務局が入院先の病棟看護師・医療ソーシャルワーカーなどと直接お話をさせていただき、入院中の様子や投薬・服薬状況(インスリン注射・透析・痛みのコントロール その他医療行為有無)を改めて確認しています。
また、結婚披露宴参列中に急変する等万が一に備え、結婚式場周辺の対応病院や搬送先(病院・クリニック)を調べていきます。
日本ツアーナースセンターでは、御本人様の情報(身長・体重など)・お身体の状態をもとにツアーナース・ヘルパーの選定を行い、確保します。
お身体の状態だけではなく、御本人様のお気持ち、ご家族様のご意向等、どんな小さなことでもツアーナース、事務局に共有してください。皆様が不安なく当日を迎えられるよう、想定できる問題点や注意点をできる限りクリアにしていきます。

◎第四関門【結婚式場に協力してもらう】
やはり、結婚式に医療や介護が必要な方が参列する場合、結婚式場担当者(プランナー)の協力が必要です。
当日のスケジュールや結婚式場内の導線、控室場所(フロアガイドなど)、車いすで入れる多目的トイレの有無や、御本人様がお疲れになったときなどに横になれる簡易ベッド(ベッドでなくてもソファをつなげて寝転べるようにするなど)をご用意いただけるか、また搬送実績のある救急病院なども事前にお伺いします。結婚披露宴中に慌ててしまうことを未然に防ぐために、事前の確認が必須となります。
また 万が一当日体調が振るわなく結婚式の参列が叶わない場合を想定し、zoomやLINEビデオ通話を使用したweb参加ができる様に、事前に結婚式場とのネットワーク確認も行っています。 また当日の食事の配慮(小さく切ってもらう)やストローの準備等も事前にお願いをしています。

◎第五関門【当日を目一杯楽しんでいただく】
当日は、ツアーナースまたはヘルパーがご指定の場所までお迎えに上がり、着替え・身だしなみのお手伝い、移動時や・挙式・披露宴参列時は常に側に待機しており、食事・トイレ等、必要に応じて見守り・介護を行います。都度顔色を見たり、バイタルチェック、服薬確認等も行っています。御披楽喜後は指定場所までツアーナースが付き添い、終了となります。
新郎新婦様は主役として、御両親様は挨拶や親族対応などに専念いただけるように、また、皆様にとって思い出深い1日になるよう、私たち日本ツアーナースセンターの看護師が終日付き添いますので、目一杯楽しんでください。

■まとめ

最初は体力や体調を気にされ結婚式参列を渋られていた祖父様も、参列後お顔色が良くなったり、笑顔が増えたり。実際に「今日一番幸せなのは孫の晴れ姿をみれた私です」と仰っていただいたり。
新郎新婦様、ご家族様からも「おじいちゃんに結婚式にきてもらえてよかった」「1日おじいちゃんを看てくれてありがとう」とお言葉をいただきます。
「出来ないと思っていた」ことができる。「無理だと思っていた」ことができる。ご家族様にとって新たな門出となる1日をお手伝いし、心が暖かくなる瞬間に立ち会えることはツアーナース・事務局にとっても、とても幸せなことです。

一生に一度の大切な日だからこそ、皆様が笑顔で過ごせるように私たち日本ツアーナースセンターがサポートします。
この幸せが日本全国のご家族様に拡がっていくことを、私たちは願っています。

参考記事
厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計」
厚生労働省「平成12年 人口動態統計」

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